戦後の経済成長は、社会全体の変貌だけでなく、子ども達をとりまく文化環境に対してもこれまでにない変化をもたらしました。子どもの遊び空間が減少し、“遊べない子”が問題になるとともに、少年少女雑誌やテレビをはじめとするマスコミは、子どもの人間形成にとって大きな影響力をもって存在するようになってきました。

 こうした時代背景の中で、子ども達の人間性を開発することの大切さを認識し、子どもたちと関わる親・教師・保育士・保健師などが、各々の領域の分野を越えて交流し、実践しあうことが、求められる時代を迎えたのではないかと思います。

 かつて金沢先生が所長(二代目)を勤められた「子どもの文化研究所」が、1969年に設立された際の趣意書では、「今日の子どもたちは、いままでにないほど豊かな文化には囲まれていますが、それらの内容にはたくさんの問題が含まれております。なにが健康で、なにが健康でないのか・・・」となげかけ、「心の底に、民族の未来を心配せずにおれない思いがある」と訴えています。

 今も状況は変わってはいません。テレビやゲームなどの文化環境、子どもの遊びやくらしの変化、競争をあおる学力偏重など、子どもの生活実態のほとんどが心配です。なかでも家庭や学校での人間関係の崩壊が重大です。

 こうした問題は「バラバラ状態では」解決できません。親・教師・保育士・保健師などが集い、「子ども達から学習や読書時間を奪ったファミコン、いじめの方法を教えた粗悪なTV番組、おまけオモチャで買わせる食べもしないスナック菓子、コンビにでも売っている性雑誌の氾濫など、その他もろもろの状況にあり、黙っているだけでは済まない。地域での文化センターを指向し、文化運動の縁の下の力持ち的存在になるべく努力していく必要がある(現子どもの文化研究所長・寺内定夫氏)」という主張に共感し、私たちは子どもたちに、よりよい文化を提供し、子どもたちの生活文化の質を高めようという皆の願いを実現させていこうと考えます。

 金沢先生は「人間にくずはない」「だれにもピカリと光る何かがある」を教育信条にして活躍されました。私たちはその先生にならい、ここに金沢先生の蔵書を収蔵する「金沢ヒューマン文庫」を拠り所にしながら、金沢先生の願いであった赤ちゃんから青少年まで、幅広い層の子ども達”の未来を明るいものにするための活動をめざしことにします。