「人間の尊厳を守り、創造力に富んだ個性をのばし、みんなと協力し合う人間の育成につとめる」

○人間の尊厳を守るために

 憲法の精神をあらわした三つの柱である基本的人権の確立も、平和の希求も、民主主義の確立も、そのもとをただせば基本的人権の確立−人間の尊厳を守ることが基礎となっている。また教育基本法も「いかにして人間の尊厳を守るか」ということがもとになっている。とくに子どもたちに対しては「いかにして人間の尊厳を守るか」ということをふだんの学習の中で徹底させなくてはならない。
 それにはわれわれ教師自身が人権意識を身につけるとともに、「子どもたちを人間として大事にする」ことから始めなくてはならない。(後略)

○創造力に富んだ個性をのばすために

 われわれはまず子どもたちの一人一人を人間的に解放し、つねに伸び伸びとした環境の中で明るくてすなおな感情を育て、よく考え創造力に富んだ知恵を磨き、目的にむかってねばり強くがんばる意志と体力を鍛えることに努力したい。(中略)その第一段階として、われわれは、子どもたちに意欲的な学習と、生き生きした遊びができるようにしてやらなくてはならない。
 ここにおいて「よく学び、よく遊ぶ」ことのできる子どもにしなくてはならない。

○みんなと協力し合う人間の育成について

 われわれは子どもを解放し、伸び伸びした中から創造力に富んだ個性をのばさなくてはならないが、それが単に利己主義のままにとどまっていてはならない。
 自分を大事にすると同じようにひとも大事にして、みんながお互いに仲間を大事にし、自分たちの集団を自主的に組織して、真に楽しい学級、楽しい学校にするための努力をしなくてはならない。(中略)このようにして仲間同士の連帯感を育てることによって、みんなで民主的な社会の形成者としての責任を自覚するような人間になることを期待するのである。
 そしてやがては社会の進歩向上にすすんで協力し、民主的な日本の建設に意欲を注ぎ、真にわが日本を大事にする人間になることを願うのである。

 そしてこの中で特に重点的にとりあげたのは、「よく学び、よく遊べ」の徹底である。
 「よく学び、よく遊べ」は漸次「みんなとともによく学び、よく遊べ」への徹底化によって十全なものとなる。
 平凡のようであって、しかも教育の神髄をついているこの古くて新しいことばを深くかみしめてみることにした。

(金沢嘉市著「ある小学校長の回想」より 岩波書店)

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